神保町シアター

これまでの特集企画

「本の街・神保町」文芸映画特集Vol.1
中村登と市川崑

※「原作」表記のない作品はオリジナル脚本によるものです。

N1〜N25 中村登監督作品

N1. 我が家は楽し

勤続25年を目前とした父と賢母と4人の子どもたちの物語。本作がデビューの岸恵子も含め豪華スターの共演が楽しい。大船ホームドラマの復活と評価された中村の出世作。
※16mmで上映

N2. 女の一生

大正時代、女子医専に学んだヒロインが独語教師との子を宿す。やがて舞台は昭和初期の社会主義思想弾圧の時代へ。説明を廃した脚色で、スピーディーに突き進む大河もの。

N3. 白い魔魚

東京の大学に通うヒロインが、破産に瀕した岐阜の実家の再建に奔走するが、債務と引き換えに求婚される。活動的な女子大生を演じ、有馬の転機となった大ヒット作品。

N4. 朱と緑

強盗事件に巻き込まれた東京の令嬢が、好意を抱いた男を頼って大阪へ。そこには恋敵となる大阪娘がいた。波乱万丈に展開する辛口恋愛ドラマ。岸と有馬の貴重な本格共演作。

N5. 集金旅行

急死した家主に代わって踏み倒された家賃を取り立てるため、山陽道を下る二人の男女の道中記。中村の代表作として今も古びることのないクールで洒脱な喜劇映画の傑作。

N6. ボロ家の春秋

住宅難の東京で、ひょんなことから大邸宅の一室を借りることになった主人公が、奇妙な隣人たちに悩まされる。アクの強い名脇役たちが勢ぞろいしたドタバタ劇。

N7. 顔役

山形市議会選挙に打って出た、たたき上げの風呂屋の主人に群がる怪しげな人々の騙し合い。上出来のコンゲーム(信用詐欺)もので、まじめな伴淳と「大木実」が可笑しい。

N8. 春を待つ人々

復活を期した老政治家が参院選に立候補したことから家庭内の様々な問題が顕在化していく。「眼福」と言いたいオールスターの群像劇をさばく演出手腕が見事。秀作。

N9. いたづら

高知を舞台に周囲に迷惑かけ通しの教師を懲らしめようと、同僚と事務員がラブレターを偽造する。日中戦争を背景に、出征間近のつかの間の青春をいとおしんだ人間賛歌。

N10. 明日への盛装

皇太子ご成婚の頃。玉の輿を目指して上流子弟の通う大学に入った理髪店の娘が、昼は大学、夜は学資稼ぎのキャバレー勤めに奮戦する。高千穂の個性を生かした楽しい小品。

N11. いろはにほへと

高額配当で出資者を募り急成長した投資会社と、うだつのあがらない刑事の虚々実々の攻防を描く社会派サスペンス。刑事に伊藤、追いつめられる社長に佐田という配役の妙。

N12. 波の塔

人妻と恋に落ちた若い検事がともに汚職事件に巻き込まれ、破滅に突き進むサスペンス映画。ロケ地、深大寺がブームになったヒット作。薄幸の人妻、有馬の美しさに息を飲む。

N13. 斑女はんにょ

武満&谷川俊太郎によるポップな主題歌「恋のかくれんぼ」から始まる、義弟と駆け落ちしナイトクラブで働くドライな女の恋愛記。中村と岡田茉莉子はいつも相性抜群だ。

N14. 河口

画廊を経営し、男たちを手玉に取りながら生きていくヒロインを岡田茉莉子が痛快に演じた傑作。参謀となる山村聡(襟元に注目)とのコンビも絶妙で、圧倒的な面白さ。

N15. 愛染かつら

戦前の大ヒット作のリメイクだが、自家薬籠中の大船メロドラマだけあって小気味いい仕上がりを見せ、大ヒットを記録。中でも3コーラスに及ぶ主題歌シーンは鳥肌ものだ。

N16. 古都

京都を舞台に別離した双子が美しく成長して再会する物語。撮影、音楽など世界水準のスタッフを掌握した見事な演出で、アカデミー外国語映画賞にもノミネートされた名作。

N17. 結婚式・結婚式

子どもたちの相次ぐ結婚宣言に振り回される老夫婦を主人公にした爽やかなホームドラマ。前年死去した小津安二郎の名キャメラマン厚田が見せる終盤の大俯瞰撮影も見もの。

N18. 二十一歳の父

裕福な家庭の次男坊が周囲の反対を押し切って盲目のマッサージ師と結婚する。彼の幼い愛を父親の視点から描くことによって、感傷に流されない確かな叙情を獲得した秀作。

N19. 夜の片鱗

やくざとの腐れ縁を断ち切れず、街娼にまで堕ちていく娘の被虐の日々を、新宿の夜景の中で描いた力作。桑野の伸びやかな肢体が美しい。西口の淀橋浄水場風景も貴重。

N20. 紀ノ川

和歌山の旧家を舞台に、明治・大正・昭和を生きた女たちの年代記を堂々たる風格で描いた中村の代表傑作。司を筆頭とした俳優陣、そして冒頭のタイトルも素晴らしい。

N21. 惜春

上野池之端にある老舗の糸屋の跡継ぎをめぐり、腹違いの妹たちとその母が長女を出し抜こうと画策する。優美な新珠と、随所に登場する着物や帯の色彩に魅了される一篇。

N22. 智恵子抄

高村光太郎とその妻智恵子のあまりにも有名な実話を、正攻法に格調高く描いた代表作。岩下の演技、芥川比呂志による詩の朗読も秀逸。米アカデミー賞に再びノミネート。

N23. 日も月も

母が出奔し、父と二人鎌倉で静かに暮らす娘が、人間の愛と死に直面しながら成長していく。ノーベル賞受賞直後の川端康成が、冒頭に江ノ電の乗客として顔を見せる。

N24. わが恋わが歌

歌人吉野秀雄の戦中戦後の家庭史を、鎌倉アカデミアで彼に師事した山口瞳らの交流とともに描く真正文芸映画の逸品。勘三郎と勘九郎(ともに先代)の親子共演も見もの。

N25. 三婆

愛人宅で急死した男の、妻、妹、そして愛人の3人が遺された本宅に同居する。3人の大女優が、この身も蓋もないタイトルそのままに欲に駆られたバトルを展開する痛快作。

K1〜K27 市川崑監督作品

K1. あの手この手

倦怠期のインテリ夫婦の前に現れた娘が大騒動を巻き起こすホームコメディの佳作。久我は、2年前に『また逢う日まで』に主演したとは到底思えないお転婆ぶり。

K2. プーサン

漫画を原作に、就職難、汚職、外食券食堂、血のメーデー事件など当時の世相を盛り込んだ「風刺喜劇」の快作。初主演の伊藤雄之助ともども大きな注目を浴びた出世作。

K3. 天晴れ一番手柄 青春銭形平次

女子にモテモテ、若き日の平次親分の活躍を描くスラップステックコメディ。まだ貧乏なので投げ銭にはヒモをつけて回収。番外篇ゆえ「原案・野村胡堂」とクレジットされている。

K4. 愛人

洗練された恋愛劇で人気の高い一篇。映画監督と舞踏家が熟年結婚し、子どもたちが同居したことから始まる迷路のような恋の鞘当てを描く。東宝時代の有馬と岡田が共演。

K5. 女性に関する十二章

ベストセラーとなったエッセイ本を狂言廻しに、なかなか結婚に踏み切れないじれったいカップルの恋愛模様が、著者・伊藤整自らのナレーションによって展開するコメディ。

K6. 青春怪談

超ドライな若いカップルが、自分のことはさておいて親同士を再婚させようと画策する。三橋や轟など、記号のようにカリカチュアされた登場人物がおもしろい日活での第1作。
※16mmで上映

K7. こころ

市川が文芸ものに新生面を見せたシリアスな人間ドラマ。「奥さん」に新珠三千代という実体が備わったことにより、事態はより納得ずくに展開する。三橋の眼光が印象的。
※16mmで上映

K8. ビルマの竪琴

戦没者慰霊のためビルマに残ることを決意した一人の兵隊を、戦友たちの目を通して描く。国内外で受賞、アカデミー外国語映画賞にもノミネートされた初期の代表作。

K9. 処刑の部屋

睡眠薬で女子大生を眠らせる「太陽族」映画として世の耳目を引きつけヒットし、市川の大映時代の幕開けを飾った秀作。原作には無い主人公の家庭のやりきれなさが秀逸。

K10. 日本橋

エキセントリックな男女の情念の世界を極彩色で描いた、市川初のカラー作品。撮影所に本物の電車まで持ち込んで組まれた大セットでの撮影が様式美の極致を見せる。

K11. 満員電車

サラリーマン生活の非人間性を徹底的に戯画化した風刺喜劇の代表作。不気味な佇まいを見せる工場群や殺風景な独身寮など、書割りも多用した特異な美術が効果をあげる。

K12. 穴

雑誌の懸賞企画のため、期間限定で失踪中の女性ルポライターが、銀行を舞台にした横領事件に巻き込まれる。とぼけた味の犯罪コメディで、京マチ子の七変化が楽しい。

K13. 炎上

吃音症の青年僧が国宝の寺に放火するまでを克明に追い、巨匠の仲間入りを果たした傑作。ともに初顔合わせの国宝級キャメラマン宮川の撮影と、雷蔵の演技も絶賛された。

K14. あなたと私の合言葉 さようなら、今日は

父と適齢期のふたりの娘。長女は許嫁との婚約解消を、親友に託すが…。『炎上』から一転、瀟洒な恋愛劇を展開する市川崑劇場。小津安二郎調の演出を試みた遊びもある。

K15. 鍵

谷崎のベストセラーを自ら原作権を得て映画化。夫婦の日記が並列する原作を大胆に改編し、エロチシズム溢れるブラックコメディーとした。カンヌ映画祭審査員特別賞。

K16. 野火

敗戦間近のフィリピン戦線で、飢餓の極限状態に置かれた兵隊たちを描いた鬼気迫る秀作。役作りのため絶食した船越が、撮影初日に倒れたという役者魂を語る逸話がある。

K17. ぼんち

船場の足袋問屋の四代目、女系家族に生まれた女好きのぼんぼんの一代記。豪華な女優陣の間を飄々と巡り、戦火も他人事の雷蔵が絶品。色彩設計も強烈な、絢爛たる娯楽作。

K18. おとうと

作家の家に生まれ、愛情に恵まれずに育った弟としっかり者の姉の魂の交流を描いた傑作中の傑作。特殊な現像を施した淡彩の映像も素晴らしい。カンヌ映画祭高等技術委員会賞。

K19. 黒い十人の女

テレビプロデューサーが関係した女たちに復讐される。白黒の映像美を駆使したスタイリッシュなミステリーで、10年程前リバイバル公開され、若い世代を熱狂させた逸品。

K20. 破戒

己の出自を隠し通せと父に遺言された、被差別部落出身の小学教師の心の軌跡を描いた名作。市川崑の題材に向かい合う姿勢は常に真摯だが、その頂点といえる達成を見せる。

K21. 雪之丞変化

「長谷川一夫三百本記念映画」のモダンな傑作時代劇。光と闇が交錯するシンボリックな画面に長谷川の艶やかな勇姿が躍り、大映オールスターが花を添える祝祭映画。

K22. 太平洋ひとりぼっち

太平洋無寄港単独横断を果たした堀江謙一の手記をもとに、裕次郎が石原プロ第1作として、市川を指名した秀作。「この監督主演コンビ以外ありえない映画」の典型だ。

K23. 吾輩は猫である

胃病病みの英語教師苦沙弥とその家族、そして無駄話に花を咲かせる仲間たちを、猫の視点を交えて描く室内劇。適材適所のキャスティングで伸び伸びと遊ぶ崑ワールド。

K24. 犬神家の一族

角川映画の第1作に指名され、第一線への華々しい復活を遂げた大ヒット作品。敗戦後まもない信州で起きた連続殺人に金田一探偵が挑む。リメイク版しか見ていない方も是非。

K25. 悪魔の手毬唄

20年前に起きた事件を執念で追う警部から依頼され、山陽地方の鬼首村に来た金田一の前で連続殺人が始まる。犯人探しよりも、動機の解明が感動を呼ぶシリーズ最高傑作。

K26. 細雪

谷崎の代表作の三度目の映画化で、群を抜く完成度を見せた名作。美しい花見のシーンから始まり、日常生活の繊細な描写がやがて次女の結婚に収斂していく脚色が鮮やか。

K27. おはん

他の女のもとに走った男を、それでも愛し続けた女の物語。大正時代の西国の町を舞台にした、三人の男女のあやなす古風な叙情の世界。市川は人形浄瑠璃を意識したという。