日本美術全集

全20巻

日本の心が紡いできた比類なき「美」。「日本美術全集 全20巻」。今、日本に存在する「最高の美」のすべてがここに。

第20回配本 (20)日本美術の現在・未来(1996〜現在)

 
責任編集/山下裕二(明治学院大学教授)
定価本体15,000円+税
ISBN9784096011201
判型・仕組B4判/320頁
カラー図版口絵144ページ・カラー図版両観音16ページ
モノクロ解説ページ160ページ/上製・函入り/月報付き

もくじ

  • はじめに 山下裕二(明治学院大学教授)
  • 日本美術の未来のために 山下裕二(明治学院大学教授)
  • 私的=史的叙述 一九九九―二〇一五 椹木野衣(多摩美術大学教授)
  • 日本美術と私 杉本博司(現代美術作家)
  • 私的日本美術史観、あるいは最後の日本美術全集 森村泰昌(美術家)
  • 私と日本美術 山口 晃(画家)
  • コラム/インターネット以降の日本のアート―終わりなきユートピア計画の系譜 黒瀬陽平(美術家/美術評論家)

概要

 2012年から発売してきた日本美術全集は、「20巻 日本美術の現在・未来」で、ついに完結します。とりあげるのは、バブル経済の崩壊、阪神・淡路大震災、オウム真理教の事件を経て戦後の高度経済成長とは異なる段階に突入した、1996年から2015年までの美術。
 草間彌生、杉本博司、村上隆など、いわゆる「現代美術」の分野で世界を股にかける作家はもちろんのこと、日本美術院所属の日本画家・田渕俊夫や、国画会の洋画家・森本草介、マンガ『バガボンド』の作者・井上雄彦、消しゴム版画のナンシー関、大学院在学中の気鋭の作家・久松知子など、ジャンルに偏らず、有名無名を問わず、日本美術の「現在」を切り取りました。
 また、本書の大きな特徴が論考の執筆者です。責任編集の山下裕二氏(明治学院大学教授)、作品選定に大きく関わっていただいた椹木野衣氏(多摩美術大学教授)に加え、第一線で活躍中の杉本博司氏、森村泰昌氏、山口晃氏の3名のアーティストに「日本美術と私」というテーマで、文章を寄せていただきました。ご自身の体験に引き寄せた実感のこもった内容になっています。
 美術家は現在をどのように表現し、また何を未来に伝えようとしたのか。豊富な作品図版、および論考の両面から浮かび上がらせます。

第一章 戦後美術を超えて
1960年代頃から現在にいたるまで、旺盛な活動を続ける草間彌生、菊畑茂久馬、中西夏之、横尾忠則、赤瀬川原平や、論考の執筆者でもある杉本博司や森村泰昌の作品。ベテラン勢の力を見せつけます。

第二章 立ち上がる絵画
奈良美智、鴻池朋子、会田誠、大岩オスカールなど、絵画に力を入れてきた作家を紹介します。また、本書の外箱に使用した村上隆の最新作『五百羅漢図』を観音開きのページに大迫力でお見せします。

第三章 跳躍する時空
古い鍵を用いた塩田千春の2015年のヴェネツィアビエンナーレ出品作『掌の鍵』、宮永愛子による、時の経過とともに変化するインスタレーション、茶室という形式を踏襲しつつ、新たな表現を試みる加藤智大の『鉄茶室徹亭』などをご紹介します。

第四章 日本画と洋画の交錯
滝の作品で著名な日本画家の千住博、スペインリアリズムの系譜をひく磯江毅、鉛筆画の木下晋、『バガボンド』の井上雄彦、そして、日本古来の要素を盛り込んだ作品を油絵具で描く山口晃などの作品を掲載。日本画、洋画と単純には分けることができない、現代の絵画の様相ギュッと凝縮しました。

第五章 写真表現の更新
キャリアの長い荒木経惟や森山大道、昨年開催された展覧会も記憶に新しい鈴木理策や蜷川実花、そして、梅佳代にいたるまで、写真表現をまとめました。篠山紀信の『大相撲』は、力士や行司など1150人が、まばたき一つせず一枚の写真におさまった圧巻の作品です。

第六章 「間」と「伝統」の再解釈
磯崎新、隈研吾、妹島和世+西沢立衛/SANAA、伊東豊雄など、世界的に高く評価されている日本の建築家の作品を前半に、後半には漆工、陶磁器、近年人気再熱中である彩色木彫の世界にも注目します。

第七章 先鋭化するポピュラリティー
ファッション、プロダクトデザインにグラフィックデザイン、長新太の絵本の原画や、『新世紀エヴァンゲリオン』に海洋堂のフィギュアなど。一般大衆に向けて作られた作品を掲載。アウトサイダーアートの9作家もここでご紹介します。

第八章 3・11以後の美術
東日本大震災という未曽有の災害に対峙することで生まれた作品を掲載します。福田美蘭の震災をテーマとした4連作、福島第一原発事故に端を発する風間サチコの巨大な木版画、そして最後は、影絵でお馴染の藤城清治による『福島原発 すすきの里』で締めくくります。

(編集部・藤田麻希)

 編集にあたり一番苦労したのが作品選びです。何しろ、1996年から2015年までを総括した初めての本です。平安時代の巻でしたら、この作品は絶対に載せなければならないという、だいたいの予想はつきますが、20巻に関してはまったくの無からのスタートでした。

 作品を選んでくださったのは、責任編集の山下裕二先生と、『19 拡張する戦後美術』の責任編集・椹木野衣先生、そして作品解説を多数執筆いただいたライターの橋本麻里さん。異なる視点を持ったお三方から出た、「○○が美術全集に載っていないのはおかしくないか?」「この人は若手だけど入れたい」などの、さまざまな意見を調整しながら、10回以上の会議を重ねました。最初に集まった2013年から状況も変わり、急遽に掲載が決まった作家もいます。

 1996年から2015年という時代区分を聞いて「現代美術の巻なのね」と、思われたかたもいらっしゃるかもしれませんが、あらためて完成した本を見返して、私のなかでは『日本美術全集20』は「現代美術」の巻ではなく、「現美術」の巻と呼んだほうが、なんだかしっくりきます。

 「現代美術」として注目を集めるのは、村上隆、草間彌生、杉本博司など、欧米の現代美術ルールにのっとって活躍する作家たち。熱心に現代美術館などに足を運ぶかたにとっては、このような作家こそが代表であるかもしれませんが、これが現在の日本美術のすべてではありません。日本で独自に発展した公募団体展の文脈で評価されている作家もいれば、何にも所属せずコツコツと作品を作っては貸しギャラリーで展示する作家、伝統工芸展に出品する工芸家、そしてマンガ家もいればデザイナーもいます。年間に500個(!)以上の展覧会に足を運び、若手作家の発掘や実力があるものの注目されていない作家の応援をしてきた山下先生の力が遺憾なく発揮され、有名、無名がシャッフルされた皆様の予想をある意味裏切る、日本美術の「現在」を切り取った、じつに幅の広いラインナップになりました。その背景には、『後美術論』(美術出版社)を上梓され、山下先生とは違うアプローチで現代美術に対して取り組んでらっしゃる椹木先生、現場取材に出かけることも多く、作家とのやりとりも多い橋本さんのお力添えがあったことはいうまでもありません。

 さて、20巻のほかの巻とは異なる特徴が、作者のほとんどが御存命であるということです。お写真をお借りしたり、掲載の許可をいただいたり、作家ご本人とやりとりすることもありました。ときには、どうしても解決できないことを直接ご質問することもありました(一方で、予想もしなかったようなご要望をいただくこともありましたが…)。

 たとえば、作品の掲載に加え、論考の執筆をお願いした画家の山口晃さんには、原稿執筆のため(いや、缶詰?)に来てくださったとき、直接、刷り上がった色をチェックしていただきました。伊藤若冲に、「この色は大丈夫?」と、聞きたくてもかなわなかったわけですから、20巻ならではのことです。ちなみに、山口さんは原稿用紙に手書きで執筆されるのですが、余白には画伯独自の「お絵描き」もちらほら入っていたりして、編集部員を楽しませてくれました。

 3月6日は、山下裕二先生と山口晃さんによる『日本美術全集』完結記念の講演会も開催します。なんらかの形で報告いたしますので、お楽しみにお待ちください。

(編集部・藤田麻希)