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2016.11.17

「本を読まない、文章も習ったことない」のに小説が大絶賛! なぜ書ける? つぶやきシローの告白(2/2) 『私はいったい、何と闘っているのか』

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キーワード: お笑い エンタメ 小説

「本を読まない、文章も習ったことない」のに小説が大絶賛! なぜ書ける? つぶやきシローの告白(2/2) 『私はいったい、何と闘っているのか』

つぶやき流"作家の作法"大公開!

 

Twitterフォロワー数、約70万人!

つぶやき芸を軸に、ナレーター、声優、絵本作家など

お笑い以外にも活躍の場を広げているつぶやきシローさんが、

小説『私はいったい、何と闘っているのか』を発表!

一人称の"つぶやき節"で"あるある"をちりばめ、

クスクス笑わせながらも、確かな余韻を残す"新感覚ノベル"だ。

前回「作家としてのライバルは村上春樹」と冗談まじりにつぶやいた

作家・つぶやきシローさんは、何と格闘しながら、

この小説を書き上げたのか、聞いてみた。

 

SOL:今回の小説『私はいったい、何と闘っているのか?』の主人公、伊澤春夫の年齢を、ご自身と同じ年齢(45歳)にしたのはなぜですか?

 

つぶやき:単純にオレが45歳だったからかもしれません。あと、中途半端な年齢だと、結婚したのは何年前だろう? とか逆算するのが大変じゃないですか? 忘れちゃうし。ピッタリのほうがいいでしょ?

 

‹‹スーパーうめやは、地域密着型のスーパーマーケットで、全部で8店舗あり、とても大手チェーンとはいえないが、この辺にお住いの人にとっては無くてはならないお店なのだ。だいたいがパートやバイトの人たちで、正社員と呼べる人は、この店には八人くらいしかいない。一番偉いのが店長で、その次が主任の私である。正式名称はフロア主任。レジが混んできたらレジを打ち、タイムサービスで足の早い刺身を出すとなれば包丁でさばき、精肉のおっちゃんにラッピングしてくれと言われれば伝票の清算は後回しにし、商品を運んでくる業者と挨拶し、電話対応から万引きGメンまで、何でも屋だ。

 不思議と嫌ではない。もう25年やっている。この大原店に関していえば、店長よりも長い。今の店長は上田さんといって63歳で、この店には18年前に来た。45歳、今の私と同じ年齢の時だ››(第1章「店長への道」より)

 

SOL:春夫はとことん不器用な男ですね?

 

つぶやき:意識したわけではないですけど、書いてみると、オレってこんな感じになるのかな・・・。

 

SOL:春夫はスーパーの主任でしたが、あれも何かご自身との共通点があったからですか?

 

つぶやき:それが、そうでもないんです。スーパーで働いた経験もまったくありません。お父さん、働いてるよな? じゃあ、スーパーってどうだろう? って。スーパーだったら、いろいろないざこざが巻き起こるだろうな、って。実を言うと、最初に書きはじめたのは、2章目の「ガッキー」からなんです。

 

‹‹「明日パパに挨拶したいって人連れてくるから」

小梅は、私と目が合うと同時に目を逸らしながら言った。

「あっ、そう」

 私は、驚きと疑問を笑顔で包んだ、今までに見せたことのない顔をした、と感じた。手鏡があったら見ておきたかったと思うくらい、違和感のある顔の動きだった››(第2章「ガッキー」より)

 

SOL:「春夫の娘の彼氏・ガッキー登場! そのとき、父は?」というシーンですね。空回りする春夫の姿に爆笑しました。

 

つぶやきお父さんを主人公とする家族の物語にしたい、そんな漠然としたイメージはありました。書き出しはお笑い要素が多いですけど、後半になるにつれて、あまり笑わせようとしなくなるんですよね。なぜでしょう? 面倒くさくなるのかな・・・。

 

「キャッチャーとキーパーの二刀流、見たことないですよね?」

 

SOL:第3章「二刀流」のくだりも、ふざけていて、面白かったです。

 

つぶやき:ふざけてますよね! ふざけてますけど、オレ、嫌いじゃないですよ。みんな、5章の春夫と奥さんとの出会い、エピソード0みたいなところ、あそこを面白いって言ってくれるんですよ。おぉ!ってなったって。でも、ここだけの話、オレ的には、春夫の息子が二刀流に挑戦するエピソードが大好きなんですよね。くっだらなくて。野球とサッカーの二刀流のエピソードは、意外と女性的にも評判がいいみたいなんです。

 

‹‹亮太は、少年野球チームでは補欠のキャッチャー。少年サッカーチームでは補欠のゴールキーパー。どちらも補欠。まあまあそんな急に結果は出ない。何てったって初の試みだし、世間やマスコミも、この偉大なプロジェクトが始動していることをまだ知らないのだ。

 そう、静かに活動してればいい。変に騒がれ、学校でも話題になって、二刀流がやりにくい環境になってしまうという、亮太が世間やマスコミに潰されるのだけは避けたい››(第3章「二刀流」より)

 

SOL:もしかしたら、スポーツを知らない人のほうが、キャッチャーとキーパーの二刀流、ありないんじゃない? って思うかもしれませんね。

 

つぶやき:ああいう二刀流、見たことないでしょ? ちょっと強引ですけど、見てみたいですよね。いいよな、あの感じ。

 

SOL:野球といえば、今年はずっと応援している中日が最下位でしたね。

 

つぶやき:ぜんぜんダメですよ。ぜんっぜん! 今年のダメは去年からわかってたダメだから。オレ、もう中日ファンっていうか、野球ファンでいいや。野球が好きですから大丈夫です。

 

「メンチカツとカレーは合わない」

 

SOL:春夫は何か節目の出来事があると、なじみの定食屋「おかわり」にカツカレーを食べにいきます。あの設定はどうやって生まれたんですか。

 

つぶやき:春夫は行きつけのBARってほど、かっこいい感じじゃない。でも、春夫も、世のお父さんも、仕事を家にもちこまないために、BARとはいかなくても、一度クールダウンしたい。それが行きつけのお店のカツカレーだったんです。最初は流れで食っただけだったんですが、そのうち、また、こいつにカツカレー食わしとくか! ってその繰り返しで。意外とバリエーションを変えながら、カツカレー食べられたし、ストレス発散にもなったかな、って。

 

‹‹夜中の12時までやっている近所の定食屋「おかわり」に入った。隣の空いている席にカバンを置いたが、やっぱりトイレットペーパーだけ下の床に置いた。このトイレットペーパーは、ビニールの穴二つに指を引っかけて持つタイプだったので、抜いた瞬間紫色になっていた人差し指と中指の先端にジュワーッと血が通った。

 カツカレーを食べた。カレーのルーを一口。カツをサクッと一口、そして白いご飯。カレーのルーがかかって衣が柔らかくなっているカツを一口、カレーライスを一口。いろいろありすぎた今日一日のように、カツカレーにもいろんな食べ方がある。無心で食べた。美味しかった››(第1章「店長への道」より)

 

SOL:やはり、カツカレーはお好きなんですか?

 

つぶやき:好きですよ。夜中に食べると、これ何キロカロリーあるんだろう? って罪悪感が生まれるから、だいたい朝、食べますね。朝ならいいかな、って。明日の朝、カツカレーが食べられる! って思うと、それだけで起きられますよ。

 

SOL:えっ、その生活を続けて、体は大丈夫なんですか?

 

つぶやき:健康ですよ。朝からすっげー食いますよ。がっつり! 春夫と同じでストレス発散になっているんでしょうね。

 

SOL:好きなカツカレーのお店はありますか?

 

つぶやき:どんなカツカレーがいちばんうまいでしょう? まだ、これ! っていうお店には出会ってないです。もしかしたら、こだわりがないのかもしれません。ホテルの高いカツカレーと駅前にある安いカツカレー、どっちがいいんでしょう?

 

SOL:カツカレーを自分でつくることはありますか?

 

つぶやき:自分で作るのは好きです。カツじゃないですけど、牛肉とか牛ステーキをトッピングするのもおいしいですよ。生卵もシューマイも合うし。あ、カレーとメンチカツは合わないって知ってました?

 

SOL:知らなかったです。今回の小説には、なぜ入れなかったんですか?

 

つぶやき:あー、入れればよかった・・・。カレーとメンチは合わねえって。オレはカレーもメンチも好きなんですよ。でも、そのふたつを混ぜると、ぜんぜんおいしくないんですよ。でも、それぞれ食べると、やっぱりおいしい。なんの話ですか!?

 

乙一、三村マサカズ、和田竜、各方面から絶賛の嵐!

 

「人間のおかしみを抽出した小説。ひねりのきいた真相。泣いた」――乙一氏。

 

「はじめて、小説で声に出して笑った。そしてラストに向かっての切なさと感動。凄い! つぶやき!」――三村マサカズ氏

 

「細部で笑わせながらも、ドラマとしてダイナミックなうねりもある、理想的な小説。中盤で必ず『おおっ』となります」――和田竜氏

 

SOL:本書のオビには、乙一さん、三村マサカズさん、和田竜さんから絶賛のコメントが届いています。

 

つぶやき:みなさん有名な作家さんなんですよね。書いてくれた人たちの顔をつぶしたくないから、面白いという方向で話題になってほしいです。三村さんが褒めてくれたことにも感謝しています。正直な人だと知っているので、率直に嬉しい!

 

SOL:こんなに評判になるって凄いことですよね。実際、面白かったですし。つぶやき流、"作家の作法"みたいなものって、何かありますか?

 

つぶやき:えっ!? そんなものないですよ。本も読まないし、書き方も習ったことないから、何が正解かわからず書いています。

 

SOL:どんな物語が好きなんですか?

 

つぶやき:それがないんです。ジャンルもよくわからない。人間だけが出てくるのがいいです。でも、重い人間関係はつらいし、登場人物が多いと忘れちゃうし。本を読むのが本当に遅いんですよ。だいたい一冊読むのに1か月かかります。

 

SOL:ネタを考えるとき、小説を書くとき、それぞれスイッチを切り替えていますか?

 

つぶやき:それぞれスイッチを入れ替えている人もいるかもしれないけど、俺は不器用でできない。今の自分は、「お笑いやる、小説書く、ナレーターやる、絵本書く、カレンダー出す・・・。全部つぶやきシロー。すべて、つぶやきシローがやること。ベクトル=つぶやきシロー」。あっ、オレ、今、矢沢永吉さんみたいになってませんか? 「矢沢が歌う、矢沢が書く、全部矢沢。すべて矢沢がやること」みたいな。これ、まずいですね。そのまま書かかれると、めちゃくちゃかっこつけてるみたいじゃないですか? "すべて、つぶやきシローのやること"といっても、あくまでも、最下層のつぶやきシローがやることですから。ずっとピンでキャラものとしてやってきたから、器用になるどころか、不器用な部分が際立ってきたような気もします。

 

 

SOL:そんな不器用なつぶやきシローさんが、小説を書くときに工夫したことはありますか?

 

つぶやき:何したかな・・・。まず追い込まれないと書かないです。今日こそ、やんないとダメ、やんないとダメ、って思いながら、パソコンを開いても、あの四角いマーク、アイコンっていうんですか? アレをクリックしないんですよね。開いたら、書かなきゃいけないから。書きはじめはまだよかったんですけど、間が空いちゃうと、最初から読み直さなきゃいけないから、よけい億劫になって。オレ読むのが遅いから大変なんですよ。今日こそは一日やるぞ、って朝がはじまるんですけど、まだ時間あるかって思ってたら、夕方になってしまって、ああ、もう寝る時間だ・・・の繰り返し。テスト前のゲームって面白いですよね! あ、質問なんでしたか? 工夫ですよね。例えばどんなのがありますか。

 

SOL:音楽を聴いてテンションを上げるとか、走ってからとか、コーヒーを淹れてからとか、カツカレーを食べてからとか? ルーティンみたいなものはあります?

 

つぶやき:あー、そういうのあるとかっこいいですね。作家っぽい。規則正しいこと、やればよかったなー。はかどったかもしれない。あっ、ルーティンというか、書きはじめる前に、現在までの文字数を確認してました。で、そこから、プラス2000字を目標に! つらくなったら、もう少しで2000字だからがんばるか、みたいな。なんか違いますね。こういうのじゃないですね。

 

SOL:ネタを書くときのプロセスとは異なりますか?

 

つぶやき:基本は同じです。ただ、突き詰める険しさが違いますね。小説にも"あるある"はあるんですが、お笑いのネタよりはハードルが低いです。一発勝負で笑ってもらう"あるある"、笑わせにいかない"あるある"、伏線として使う"あるある"、いろいろな"あるある"があってもいいかな、と思いました。

 

SOL:最後に、この本を誰に読んでもらいたいですか?

 

つぶやき:全員ですよね。オレが読むの遅いから、読むことが大変なの、わかります。貴重な時間が奪われることもわかっています。それでも、みなさんに手に取ってほしいです。世のお父さんにも、女性にも。

 

<撮影/国府田利光>

 

『私はいったい、何と闘っているのか』

著/つぶやきシロー

伊澤春男、45歳。スーパー勤務。一見平凡な日常は、きょうも彼の脳内で戦場と化す――。

家に遊びに来た長女の彼氏にいいところを見せるために考えたヘネシー作戦とは?

息子を野球とサッカーの史上初の二刀流に育てるための前代未聞の秘策とは?

そして、念願のスーパー店長への長く険しい道の果てに待っていた、予想外の結末とは?

七転八倒中年男の笑いと涙のサバイバル人生劇場。

カバーイラスト、西加奈子氏。

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