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2020.2.8
生きててごめんなさい。『結愛(ゆあ)へ 目黒区虐待死事件 母の獄中手記』
この記事は掲載から10か月が経過しています。記事中の発売日、イベント日程等には十分ご注意ください。
彼女は、あなただったかもしれない。
‹‹2018年6月6日、私は娘を死なせたということで逮捕された。いや「死なせた」のではなく「殺した」と言われても当然の結果で、「逮捕された」のではなく「逮捕していただいた」と言った方が正確なのかもしれない››
2018年3月東京都目黒区のアパートで、当時5歳の少女・結愛(ゆあ)ちゃんが命を落とした虐待死事件。
十分な食事を与えられておらず、父親から暴力を受けていたことによる衰弱死だった。
本書は、保護責任者遺棄致死容疑で逮捕され、第一審で懲役8年の実刑判決を受けた母親・優里被告による獄中手記です。
優里被告は、逮捕後からノートに自分の気持ちを書きとめていました。
その狂おしい内心を吐露した内容が、本書に掲載されています。
‹‹檻の中に入る。
結局、私は誰かに監視されていないとダメな人間なんだろう。どうせ私はまともな人間ではない。ゼロをただの人間だとすると、どうせ私はマイナス100の人間だ。いくら頑張ったって何の取柄もないゼロの人にすらなれない。彼はよく言っていた。「まわりで楽しそうに生き生きとしている主婦とお前は違う。あの人たちは陰で努力をしているからこそ、表で余裕のある振る舞いができているんだ。みんな楽しているよう見えて苦労している。お前はマイナス100の人間なんだから、少し頑張ったくらいで調子に乗るな。勘違いするなよ」››
彼女の心は夫からの執拗なDVですり減り、児相にも警察にもSOSは届かず、しつけという名の虐待は日常化していました。
「なぜ、夫の暴力を止めることができなかったのか」
「なぜ、過酷な日課を娘に強いたのか」
「なぜ、やせ衰えた娘を病院に連れていけなかったのか」
「なぜ、誰にも助けを求めなかったのか」
深い後悔と絶望の果てにつむいだ痛みと悲しみの記録。
手記を読めば、優里被告は、娘の虐待死において加害者でありながら、夫の執拗な精神的DVによって心がすり減らされていった被害者であるという事実に気がつくはずです。
虐待事件を精力的に取材してきたルポライターの杉山春氏の解説、そして公判前に優里被告を診断した精神科医の白川美也子氏の診断書(意見書)も巻末に収録しています。
‹‹優里の手記を読むことで、改めて児童虐待の背景には、妻へのDVが複雑に入り込んでいることがあると強く意識した。優里が被った精神的DVは、第三者からは発見しづらい。DVへの対応の難しさを思うが、それでも、今後、行政や警察も、対策を講じてほしい。
優里は手記で、雄大との関係を冷静に振り返っている。一見、支配の構造から逃れたように見えるが、雄大の公判で証言台に立った時には、突如、〈結愛をボロボロにし張本人である彼に土下座して謝ればよかったと後悔した〉と語るなど、優里が受けた精神的な傷は、いまだ回復途上にある。回復を続ければ、また異なる風景が見えるはずだ。回復とはそういうものだ。それでも彼女は、今回出版を決意した。(略)
私は優里の勇気を生かしたいと願う。››
(解説「見えないDVと届かないSOS」より)
〈 目次 〉
出版にあたって 大谷恭子(弁護士)
プロローグ
第1章 結愛が生まれた日
第2章 虐待
第3章 上京
第4章 深い闇から
第5章 生きて償う
第6章 裁き
エピローグ
解説 見えないDVと届かないSOS/杉山春(ルポライター)
関連年表
巻末資料 意見書/白川美也子(精神科医)
著/船戸優里
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