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2021.3.20

世界でいちばん大切な家族を裏切ってまで、どうして愛してしまうのか。『9月9日9時9分』

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キーワード: 小説 恋愛 家族 青春 タイ

世界でいちばん大切な家族を裏切ってまで、どうして愛してしまうのか。『9月9日9時9分』

〝愛〟とは何かを問い続ける「一木けい」の新たな代表作!!

 

《推薦文》

影を帯びながらも、なんてまばゆい小説だろう。

痛みを抱えて生きる私たちに寄り添って、

「きっと大丈夫」とささやきかけてくれるようだ。

――三浦しをん

 

愛される快感と、「人」を想う難しさ――。

バンコクからの帰国子女である高校1年生の漣は、日本の生活に馴染むことができないでいた。

そんななか、高校の渡り廊下で見つけた先輩に、漣の心は一瞬で囚われてしまう。

 

«彼はもうすぐそこにいた。上履きの先端の色は緑。襟に2Cのクラス章が付いている。細長い手脚と、体温の低そうな肌。笑っていないのに笑窪がある。もしかすると笑窪ではなく、単に痩せすぎて余分な肉がないだけかもしれない。彼の瞬きはゆっくりで、回数そのものが少なかった。

すれ違う直前、視線が激しく衝突した。

心地好い風が吹き、木漏れ日を揺らめかす。

反射的といっていいくらい素早く、ルンピニ公園の景色が広がった。

極彩色の花びらがふるえ、どこからか炭火焼のガイヤーンの香りが漂ってくる。

その公園へ行くのは、決まって休日の朝だった。ピンと尖って瑞々しい岸部の草を踏み、つめたい朝露で足をぬらした。歩き疲れて小腹がすくと、屋台で食べ物を買った。父はシーフードのお粥、母は緑の酸っぱいマンゴー、私はロティ。上品で豪華な日本のクレープもおいしいけれど、カリカリで練乳たっぷり、甘い甘いタイのロティが私は大好きだった。どぼんと何かが水へ落ちる音がして顔を向けると、恐竜みたいなオオトカゲが頭だけ出して、ゆっくりと向こう岸へ泳いでいく。私はその、悠々たる後ろ姿を見送る。ゆったりとした時の流れ。ルンピニ公園には私の好きなタイ生活が詰まっていた。

足を止めて、振り返る。

オオトカゲが遠ざかるみたいに、彼の背中がどんどん小さくなっていく。»

(本文より)

 

漣は先輩と距離を縮めるが、あるとき、彼が好きになってはいけない人であることに気づく。

それでも気持ちを抑えることができない漣は、大好きな家族に嘘をつくようになり・・・。

忙しない日本でずっと見つけられずにいた、自分の居場所。

それを守ることが、そんなにいけないことなのだろうか。

過ぎ去ればもう二度と戻らない「初恋」と「青春」を捧げ、漣がたどり着いた決意とは?

バンコク在住の著者だからこそ描けた、国境を超えた名作!!

 

「進まぬ原稿に焦りバンコク某宿に缶詰になったときのこと。チェックイン時『仕事をしに来たのでしずかな部屋を希望します』と伝え、入室後 don’t disturb の札を提げた。コーヒーを淹れパソコンをひらき、用心に用心を重ねてシャボン玉のような要塞を作り上げる。集中に入った。数か月に一度の集中が来た、と高揚した瞬間、ドアをノックするリズミカルな音。シャボン玉は割れてしまった。時間がない。どんな言葉を選べば伝わるだろう。物語を追い出し脳内でタイ語を組み立て、口の中で発音を予習し、ドアを開けた。

そこに立っていたのは、満面の笑みを浮かべたスタッフ二人。

『がんばってね!』カオニアオマムアンが差し出され、『パソコン使うならこっちの光の方が目に良いよ』と新たなライトスタンドを設置してくれた。

何がどう転がるかわからない。探して、失敗して、許され、許し、進んでいく。

執筆は大いに捗り、『9月9日9時9分』が出来上がった」

(著者「エッセイ」より)

 

絶賛の声、続々!!

「魅力的なラストには、初恋の果実を素手でもいで、一生残るかもしれない苦みを受け入れた。少女の確かな成長があらわれている」――浅野智哉さん(ライター)

 

「最高の幸せが目前にあるのに、受け取れない。大切なものが多すぎて。全てに素直に向かい合う漣も、支える家族も友人も、最高でした」――山内百合さん(丸善・お茶の水店)

 

「純粋な『物語』の魅力に満ちた本書、傑作の一言です」――山本 亮さん(大盛堂書店)

 

「私の中で、息をする方法を忘れてしまった時に必要な、『家族』と『祈り』の物語たちにまた新しく大切な一冊が加わった」――平野千恵子さん(紀伊國屋書店・イトーヨーカドー木場店)

 

「〈大切な人を、どうしたら本当に大切にできるのか〉それを悩み考え抜いて〝モアベター〟を探ってゆく。そのプロセスを温かく見つめた物語だと思う」――沢田史郎さん(丸善・お茶の水店)

 

『9月9日9時9分』

著/一木けい

【著者プロフィール】

一木けい(いちき・けい)

1979年福岡県生まれ。東京都立大学卒。2016年「西国疾走少女」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。同作を収録した『1ミリの後悔もない、はずがない』が業界内外から絶賛され、華々しいデビューを飾る。他の著書に『愛を知らない』『全部ゆるせたらいいのに』がある。現在、バンコク在住。

 

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