いままで数々の末期がん患者を看取ってきた、内科医であり、僧侶でもある田中雅博氏は、自身も末期がんになり、余命数か月と自覚しています。その彼が「いのちの苦しみ」との向き合い方を説く本書は、長年ひとの死を間近で見てきたこと、そしていま「自分の番」が来たことについての実感が深く込められているため、とても重く響いてきます。 医学の限界を知った彼は、宗教こそが人が死と向きあったときに救いになると語ります。宗教というのは仏教やキリスト教だけでなく、自分のいのちより大切なものを見つけたとき、それがその人自身の宗教になるのです。 「命がなくなることに対する苦しみと直面する、その『いのちの苦』から救われるには、『自分への執着』を捨て、どんな人生であったとしても、そこに価値があったと考えて『自分の人生の物語』を完結させるしかない」と、田中氏は言います。 人間であれば誰しも逃れることのできない生と死の見つめ方の本質を教えてくれる一冊です。 〈たくさんの患者さんが亡くなられていくのを看取りながら、「そのうちに自分の番が来るだろう」と思っていました。だから、驚きもしないし、悲観もしない。「自分の番が来たか」と。むしろ「自分の番が来たらこうしよう」と考えてきたことがあるので、それを一つ一つ実行しているような感じです〉(本文より) 筆者の言葉は、死を身近に考えるすべての人たちの心に、深く刻み込まれるはずです。
■この本の推薦者 普門院診療所内科医・西明寺住職 田中雅博さん
1946年、栃木県益子町の西明寺に生まれる。東京慈恵会医科大学卒業後、国立がんセンターで研究所室長・病院内科医として勤務。'90年に西明寺境内に入院・緩和ケアも行なう普門院診療所を建設、内科医・僧侶として患者と向き合う。2014年10月に最も進んだステージのすい臓がんが発見され、余命数か月であることを自覚している。