日本美術全集

全20巻

日本の心が紡いできた比類なき「美」。「日本美術全集 全20巻」。今、日本に存在する「最高の美」のすべてがここに。

第12回配本 水墨画とやまと絵(室町時代)

 
責任編集/島尾 新(学習院大学教授)
定価本体15,000円+税
ISBN9784096011096
判型・仕組B4判/296頁
カラー図版口絵144ページ・カラー図版両観音16ページ
モノクロ解説ページ136ページ/上製・函入り/月報付き

もくじ

  • はじめに 島尾 新(学習院大学教授)
  • 室町絵画の中国風 島尾 新(学習院大学教授)
  • やまと絵の再生と革新──室町時代土佐派の成立と展開 髙岸 輝(東京大学准教授)
  • 山水画の伝統と雪舟──北京と山口で描いた大作 畑 靖紀(九州国立博物館主任研究員)
  • 16世紀復興画壇の旗手──元信と光茂 相澤正彦(成城大学教授)
  • 室町時代の仏師と仏像 山本 勉(清泉女子大学教授)
  • コラム/遊びと座敷──書院造の誕生 藤田盟児(広島国際大学教授)
  • 図解・用語解説/中世の寺院建築

概要

日本美術全集第12回配本に当たる『水墨画とやまと絵』では、室町時代の美術品──絵画、工芸、彫刻、建築、庭園など多岐にわたる作品を紹介します。国宝最多ホルダーである雪舟をはじめ、技を競い合った土佐派と狩野派、美術コーディネーターとして活躍し画家としての作品も残している能阿弥、芸阿弥、相阿弥らの絵画をはじめ、茶碗や青磁などの唐物、長谷寺十一面観音菩薩立像など、室町美術の名品から約150点を厳選して掲載しました。

注目点

カラー図版ページの章立てに沿って、見どころを紹介します。

第一章 室町美術の構図
キーワードは「公」と「武」、そして「和」と「漢」です。
足利将軍家は京都に将軍邸を構えました。もちろん、この地には天皇・公家が前の時代から変わらず住んでいます。つまり、「公」「武」ふたつの権力と文化の極が京都に発生したのが室町時代です。将軍家は天皇に負けじと「唐物」と呼ばれる中国の絵画や工芸品を集め始めます。こうして伝統的な「和」の美術に、「漢」がまぎれこみ、“中国風”の美術がさかんになってゆくのです。
そんな構図を象徴するのが掲載図版トップバッターの『金閣』です。続いて2番目は唐物の大名物である牧谿筆『遠浦帰帆図』。そして中国絵画を参考・モデルにしつつ和も融合させた如拙筆『瓢鮎図』、能阿弥筆『花鳥図屏風』などが章のテーマを象徴します。

第二章 禅の美──漢の展開
多くの僧が中国へと留学し、“中国風”のベースとなる中国文化を持ち帰った結果、どんな作品が生まれたのか。つまり「漢」がどう展開したかを示す名品を収載したのが第二章です。
禅宗において欠かせないキャラクター・達磨(禅宗の初祖)の絵がたくさん描かれましたが、なかでも2006年に国宝となった雪舟筆『慧可断臂図』は必見。赤い血糊の付いた腕を達磨にアピールし弟子入りを志願する僧(のちの慧可)の切実な表情、ゴツゴツした岩肌などはあまりに生々しく、一時期はニセモノともいわれていた作品です。作品解説によると、本図は雪舟77歳の作。「画聖」イメージを突き破る大作です。

第三章 和の美──古典の再生
第二章に対し、「和」の世界を紹介するのが本章。“中国風”が主流になったからといって、これまでの日本の文化が一変したわけではありません。むしろ「漢」という新たなモードが来たことで、これまでの「和」は再編され、より豊かな表情を見せてゆくことになります。
絵巻物『慕帰絵』『祭礼草紙絵巻』を見ると、当時の人々の儀礼や暮らしがよくわかります。また広く親しまれているお伽草子のひとつ『福富草紙絵巻』も登場。編集委員の山下裕二氏が「次の国宝候補」と推す金剛寺蔵『日月山水図屏風』の美しさにはため息が出ます。

第四章 雪舟と光信
室町時代を語るうえで外せないキーワードのひとつが「応仁文明の乱」です。本章では、この大乱後に山口という地方で活躍した雪舟と、京都で絵所預として活躍した土佐光信に、当時を象徴させました。
みどころは、4ページで掲載した雪舟筆『四季山水図(山水長巻)』と、土佐光信筆『槻峯寺建立修行縁起絵巻』です。どちらからも海の風景と陸の風景を取り上げ、見比べられるレイアウトにしてみました。また肖像画のジャンルでは、雪舟の『益田兼堯像』と光信の『桃井直詮像』を左右に並べて掲載。

トリを飾るのは、現存最古の『洛中洛外図屏風』である歴博甲本です。部分図として掲載した左隻には、掲載順No.1の『金閣』が見つかります。ぜひさがしてみてください。
そう、掲載図版のトップバッターが金閣で、トリも金閣。そのくらい、金閣は室町美術における重要なアイコンです。その理由は、本巻をお読みいただければきっとおわかりになるはずです。

(編集担当・竹下亜紀)

 毎回、ケースに巻き付ける帯の文面は、編集部が提案し、責任編集の先生のチェックを受けて決定します。作成の時期は校了の約1か月半前。おおよそ、本の構成が8割方決定したぐらいの時期でしょうか。つまり、担当者としてはそのとき抱いている本の魅力を、25文字前後でまとめることになります。いま巻き付けられている帯の文言は、「天皇と将軍/唐物と〔和〕/革新的/美の再編が/始まる」──なんだかわかるようなわからないような表現になっておりますが、この22文字に担当者のその当時の正直な思いを込めたつもりです。日本美術史の流れのなかにおける室町時代とは、「美の再編」が今まさに「始まる/始まったばかり」の革新的タームであったのだ、という率直な驚き。この思いを、ぜひ読者のかたにも共有してほしい。そして約2年間における編集作業は、かかわっていただいた監修の先生にとっても、室町美術をいかに一巻でまとめあげるかという、「室町美術の再編」に挑戦する日々であったのではないかと思います。なにせ名品揃いの時代です。唐物あり、水墨画あり、絵巻あり、仏像も工芸も建築も庭園も・・・・そういえば過去に出た美術全集では、室町美術に複数巻を費やしている。それを今回は一巻=作品点数約150点で見せようというのですから。

 開いた会議は、その数15回を超えたでしょうか。ほとんどは、編集部のあるビルの会議室にて、夕方から深夜まで。1回の会議で10時間近くかかったときもあり、いつもお元気な先生方もさすがにその時はグッタリされ「いっそのこと、もう一巻増やそうよ・・・・」との言葉が漏れた夜も。

 その甲斐あって、この一冊を読めば、日本美術史における室町時代がどんな時代であったのか、これらの名品がどのように生まれてきたのか、そもそもなぜ名品なのか、そして次の時代である近世にどのようにつながっていくのか──が、じつにわかりやすく理解できる構成になったと思います。

 また、本巻の特徴として、図版解説執筆者の多さにも注目してくださるとうれしいです。学習院大学の荒川正明氏、編集委員でもある東京大学の板倉聖哲氏と明治学院大学の山下裕二氏、京都国立博物館の山本英男氏などすでに各所の展覧会でご活躍中のベテラン研究者にまじり、1970年代生まれの若い研究者たちも名を連ねています。この方たちの名前を、近い将来、私たちはさまざまな展覧会企画者として目にする機会が増えるでしょう。

 長らく、「室町は水墨画の時代」と思われてきました。たしかに中国からすばらしい水墨画がやってきて、現在も観る機会があるごとにその手技の巧みさや美しさに私たちは目を奪われます。しかし、京都で修行し、“本場”中国で絵を学んだ雪舟の作品が、お手本通りに描かれているかというと、否。手法を上手に取り入れつつ、独創性を発揮しているからこそ、私たちは雪舟の絵に吸い寄せられてしまうのです。

 これって、人の生き方にも通じるなあ。あの人すてきだな、と思ったら、そのすてきな点をまず真似てみる。でもこれまで築いてきた自分の核みたいなものも再点検してみる。それを繰り返していけば、未来はもっとすてきに切り拓かれていくのではないか。あ、本全集のキャッチコピー<美術が未来を切り拓く>って、このことだったのか!? ──と、妙なところで腑に落ちてしまいました。

 一冊でも多く、この興奮を皆さんに届けられれば幸いです。

(編集担当・竹下亜紀)