1989年~1991年にテレビ朝日系列で放映されたアニメ版『チンプイ』。その主人公・春日エリを熱演した人気声優の林原めぐみさんに、当時の思い出や、「チンプイ」という作品の魅力を、たっぷり語ってもらいました!

東京都出身。声優・シンガー・ラジオDJ。1986年、声優デビュー。1989年に『チンプイ』の主人公・春日エリ役に抜擢。以降も『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイ、『名探偵コナン』の灰原哀、『ポケットモンスター』のムサシなど国民的アニメのキャラクターを数多く担当し、人気声優に。シンガーとしても活躍しており、2017年6月に初の本格ライブを開催。その様子を収めたBlu-ray&DVD「林原めぐみ 1st LIVE -あなたに会いに来て-」(価格:6,900円+税)が好評発売中。また、25年目を迎えたラジオ番組「林原めぐみのTokyo Boogie Night」のDJも務める。一児の母でもある。

ダメ出し連発! でもチンプイカンプイ。

今回、新装版「チンプイ」を読んで真っ先に思い出したのはワンダユウさんの「パンパカパーン♪」です。何度も大量のテープを浴びせられたのを鮮明に覚えています(笑)。

エリちゃん役に決まった当時はデビューして数年の新人でしたが、アニメ業界が活発になっていく頃だったので追われるように仕事をしていました。ただ、チンプイ役の堀絢子(じゅんこ)さんやワンダユウ役の八奈見乗児(やなみじょうじ)さんなど、ベテランのみなさんにやさしくしていただき、内木くん役の佐々木望(のぞむ)くんも声優養成所の同期だったので楽しい現場でした。

ですが! 音響監督の浦上靖夫さんからはダメ出しされっぱなしで…。何をやっても叱られ、4話目くらいまでは隣につきっきり。ある時、「自分の演技を反省しなさい」と放送前のビデオを渡されました。でも、めちゃくちゃおもしろかったんです(笑)。その感想をそのまま伝えたら、「きみねえ……」と肩を落とされて。

それでもエリちゃん役を続け、だんだんわかったことは、結局わたしはアニメのエリちゃんの動きに合わせて声をあてはめていただけで、チンプイやワンダユウさんなど周りの人とコミュニケーションを取れていなかったんです。みなさんと一緒に過ごしていくうちに、ママ役の鈴木弘子さんが本当のママに思えたり、堀さんがチンプイそのものに見えてきたり、そういう感覚がゆっくり芽生えていきました。役を演じるのではなく、春日家の一員になるという感じ。声優の奥深さを教えていただきました。叱られていた時はチンプイカンプイでしたけど(笑)。

ベッドで添い寝するエリちゃんとチンプイ。
原作漫画でも仲のいい二人だが、アニメではさらに距離が近い。

振り返ってみると、エリちゃんの前から演じていた『魔神英雄伝ワタル』のヒミコなどは周囲のことはおかまいなしに前へ出るタイプでした。一方、エリちゃんはふつうの家庭の女の子。だから、“日常感”が必要だったんです。明るさや猪突猛進さだけではなくて、家族や友達との日常的な空気感が。本当にありがたい演出をあきらめずにしていただいたな、と感謝しています。

浦上さんとは、ずっと後に『天使な小生意気』というアニメでもご一緒しました。その時、先輩のわたしに遠慮していた相手役の子を浦上さんが指導されていたんです。「あっ! チンプイの頃のわたしといっしょだ」と思って、オフの日に彼女をデートに誘いました(笑)。そしたら距離が縮まって、親密な演技ができるようになりました。「めぐみちゃんは僕に似てるねえ」と親しくなりやすい空気を作ってくださった八奈見さん。すごくやさしく気遣ってくださる器の大きな堀さん。『チンプイ』からもらったものの恩返しが、すこしはできたかな(笑)。

元祖肉食女子!? F先生との思い出。

“日常感”といえば、「チンプイ」をはじめ藤子・F・不二雄先生の作品には、どんなに突飛な設定でも必ず描かれていますよね。どんな冒険をしても帰ってこられる場所。そこがとてもリアルです。エリちゃんにとって、もっとも日常的な存在のママは、ちょっと人づかいが荒すぎますけど(笑)。わたしもママになりましたが、さすがにここまで厳しくはしてませんよ。鬼とはいわれることあるけど(笑)。

エリちゃんに喜々としてお手伝いを命じるママ。
娘に「鬼!」「悪魔!!」「人でなし!!」と叫ばれても、なんのその(①巻)。

それにしても先生の漫画はアニメみたいに動いて見えて、これが止め絵だと信じられません。漫画家だからって誰もがたどり着けるわけじゃない世界、先生にしか表現できない世界に感動します。

いま思えば、なぜ先生にサインをもらわなかったのかと後悔しています。劇場版『チンプイ エリさま活動大写真』の舞台あいさつでご一緒して、その後に同時上映の『ドラえもん』の声優さんたちと豪華なしゃぶしゃぶを食べに行きました。当時のわたしが見たことのない美しい霜降りのお肉。のび太くん役の小原乃梨子(おはらのりこ)さんに「毎年このお店なのよ」と教えていただいて、「こんなお店に来られるなら、来年も劇場版やらないかな」なんて(笑)。小原さんやみなさんから、「若いんだから」とお肉がどんどん集まってきて、先生が目の前に座ってらっしゃったんですけど、お肉に夢中でほとんど、お話していません。本当に残念です。あの頃の自分に「聞きたいことはないのか!?」と詰め寄りたいです! 先生が大山のぶ代さんや小原さんと仲睦まじく作品のお話をされている中、ひたすらお肉をがつがつと…。でも、エリちゃんぽいですか?(笑)

母娘に継がれる、エリイズム!

わたしから見た「春日エリ」というキャラは、とってもイイ子! 大人の顔色をうかがって怒られないように「イイ子」として、振る舞うんじゃない、まっすぐな子。誰かがこういったからとか、これが流行っているとか、そういうことでぶれない。遠い星の王子様に自分の意見をはっきりいえる芯の強い子ですね。

エリちゃんの“まっすぐさ”を象徴するジャンプ。
漫画ではブロック塀だけだが、アニメでは上に生垣があり、通り道が凹んでいる。

いま、エリちゃんに近い13歳の娘がいるのですが、「だれだれに自慢されてむかつく」といって怒って帰ってくることがあります。そしたら「いいね!っていってあげな」っていうんです。本当に満たされている人は自慢しないもんだよ、と。

わたし自身もぶれないし、だれかに自慢されてもうらやましいとは思わないので、エリちゃんに似ていますね。あの年頃にそうだったかといえば別ですが、特別な役作りをした覚えがないくらい近い存在です。だから叱られたのかな?(笑)。「もうちょっと考えなさい、あなた」って。

ちなみに、娘が初めてアニメの『チンプイ』を観たのは約10年前にDVDが発売された時でした。わたしがエリちゃんをやっていることには気づかず、すぐにハマりましたね。いつだったかフェルトでチンプイを作ってくれたことがあって、今でも大事にとってあります。娘はそれを見るたびに「ヘタだ、ヘタだ」といいますが、すごくかわいい♪ エリちゃんみたいに、まっすぐに育ってくれたらいいんだけど…。

ずっと続けたい! いつでも戻れる、あの日常。

アニメの最終回のことはぜんぜん覚えていません。そもそも終わった気がしていません(笑)。内木くんを選ぶか、ルルロフ殿下を選ぶか、結論を出してジ・エンドという終わり方をしていないからかな。けど、それでいい。この先、ルルロフ殿下の良さがさらに明らかになって、内木くんとの淡い恋心がただの友情に変わっていくかもしれない。それとも内木くん一途のままかもしれない。それはみんなの想像の中で作っていけばいいと思います。

わたしの好みは、どっちかと聞かれると、どうでしょう(笑)。内木くんもルルロフ殿下もタイプ的には似ていますよね。あたりの柔らかいジェントルマン。ルルロフ殿下は謎が多すぎるので、もう少し観察してみたいです。内木くんの八方美人な性格は、ちょっとイラッとしますね(笑)。そういう人と恋愛すると苦労しますよ、きっと。

ルルロフ殿下は王室の決まりで婚約するまでエリちゃんに顔を見せることができない。だが、エリちゃんの夢の中で、ついに…?(②巻)

みんなにやさしい内木くん。この時は「科法」の力でエリちゃんとの約束を破ってしまった(④巻)。

話がそれましたが、『チンプイ』は終わっていないと思っていたからこそ、3年前にドラえもんとのコラボで復活した時は本当に夢のようでした。25年前の自分にすっと戻って、また毎週録ろう!という感じ。つくづく声優っていいなと。いつでもドラえもんの「タイムマシン」に乗って時代を超えられるといいますか。ただ、八奈見さんは「ぼくはもう無理だよ」と笑いながらおっしゃっていて、その姿もワンダユウさんぽかったですね(笑)。

2014年に制作された特別アニメ『ドラえもん&チンプイ「エリ様 愛のプレゼント大作戦」』より。期間限定で川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアムで上映された。2017年12月より、高岡市 藤子・F・不二雄ふるさとギャラリーで上映中(期間限定)。

これも科法!? 一緒に過ごすと●●●♪

こうして新装版として『チンプイ』の漫画が発売されて本当にうれしいです。昔からのファンで大人になった方たちは、ぜひ広めるのに協力してください(笑)。子どもの目に入るところに置いていただけたら、きっと夢中になって読んでくれると思います。

これから読む子どもたちは、ただ楽しく読んでくれればいいのですが、“一緒に時を過ごすことの大切さ”を感じ取ってもらえたら、うれしいな。おせっかいですが、アニメ放映当時はケイタイやインターネットが普及してなくても、なにひとつ困りませんでした。お友達との関係も家族との関係も。もちろん、できないことをテクノロジーで埋めることは素敵だと思います。けど、できるならメールで済ませないで学校で会って直接伝える。そういう顔の見えるコミュニケーションを取っていると心の中の埋まらない場所が小さくなっていきます。一緒にご飯を食べたり、一緒に遊ぶって、すごく宝だと思いますよ。

家族みんなで食卓を囲む、失われつつある団らん風景。F先生も、どんなに忙しくても家族そろって朝ごはんを食べていたという(②巻)。

夢中になって一緒に遊んだ思い出は大人になっても、ずっと色あせない。科法を使わないふつうの遊びもしっかり描かれている(①巻)。

「一緒に過ごす大切さ」はF先生のどの作品でも描かれていますよね。若い頃にみんなで助け合って漫画を描かれたという「トキワ荘」の経験からでしょうか。いまはインターネットを通して顔を見ずに仕事のやり取りまでできる時代ですけど、できる時は直接会って、ね。学生時代に仲間と過ごした部室のような心に残る場所。そういう場所を、ひとつとはいわず、家族との間、友だちとの間、仕事仲間の間につくってみてください。そしたら、きっと、「いいことあるわよ♪」

テレビアニメの次週予告の〆セリフ「いいことあるわよ」が添えられた、林原めぐみさんの直筆色紙。

1989年から1991年にかけて放映されたテレビシリーズ全57回と、劇場版『チンプイ エリさま活動大写真』を収録した「チンプイ スペシャルプライスDVDボックス」(価格:25,000円+税)が絶賛発売中。

エリちゃんといえばオンチですが、それを演じるのが大好きでした! 「ウィー・アー・ザ・コスモス♪」、いまだに歌詞が頭から離れません(笑)。わざと音を外すのは意外と難しくなくて、とても楽しい思い出です。

interviewer/Naoki Kamiya(神谷直己)

©藤子プロ/シンエイ動画
©藤子プロ・小学館・中央公論社・テレビ朝日1990

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