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2015.9.24
問題山積の超高齢社会ニッポンから、幸せな最期を求めて「脱出」というアクションを起こした高齢者たちの、衝撃ルポルタージュ。『脱出老人』
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2010年の日本の国勢調査では、一人暮らしの単独世帯が、夫婦と子供から成る世帯をはじめて上回り、65歳以上の高齢者は2035年には3人に1人になると推計されています。
「下流老人」「老後破産」などの言葉が連日のようにメディアにとりあげられ、最近でも介護施設の現状が話題になっている昨今、これから日本の高齢者はどのように自分の生活を守っていけばよいのでしょうか?
本書の著者は、開高健ノンフィクション賞を受賞した、マニラ在住のジャーナリスト。フィリピンに住んで11年、近年は、年々増える一方の日本からの移住者、とくに高齢者たちの取材を進めるうちに、彼らのこれまでの人生、移住するきっかけ、移住してからの生活の波瀾万丈っぷりを目の当たりにし、そういう状況を生み出す日本の高齢化社会の問題をとことんつきつめていきました。
3年間かけて取材した人数は100人超。ときには、日本刀を持った男に脅されたり、取材者に罵倒されたり。まさに体当たりノンフィクションです。
本書に登場する高齢者たちは、さまざまな事情を抱えていますが、共通することは、「寂しさ」「貧困」「人間関係の閉塞感」「寒さ」「介護疲れ」「ゴミ屋敷」など、日本での苦しい状況からなんとか抜け出したいと、「日本脱出」というアクションを起こしたこと。
結果的には、世間から見たら“失敗人生”という人が多いかもしれませんが、一瞬でも、南国の風のなかで幸せを味わったことは事実でしょう。フィリピンは一年中温暖で物価も安く、さらには、世界一のメイド輩出国であるだけに、いつも明るく思いやりのある国民性に、日本では味わうことのできない癒やしがあることも確かです。
あとがきに、移住してくる日本人たちに様々なサービスを提供するフィリピン退職庁の長官に、著者がインタビューしたときのことが書いてあります。一人暮らしの寂しい高齢者が多い日本の現状を伝えると、困ったような表情でこう言いました。
「だったら、みんな連れてこいよ!」
「いやいやそうは言っても、医療や言葉や食べものを考えるとフィリピンには行きたくないし、日本で最期を迎えたい」という方が多いでしょう。
本書は、決してフィリピン移住、海外移住をすすめている本ではありません。ただ、海外移住だけが幸せの形ではありませんが、世界に先がけて超高齢社会へ突入した日本で、私たちが今後どのように生きたら幸せになれるのかを考える絶好の本であることは間違いありません。
『脱出老人 ──フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち』 水谷竹秀 定価:本体1,600円+税
*記事内の写真は、本書ではモノクロ収録です。
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