大学卒業後、住宅リフォーム会社「スペシャルライフ」に就職した片桐いずみ。3月になっても内定がひとつもなく、フリーター生活を覚悟した矢先、ようやく手に入れた正社員の身分だ。入社前、住宅リフォーム会社の営業と聞いて、おしゃれなインテリアを提案する自分の姿を想像して悦に入っていたが、現実は甘くなかった。新人の役回りは飛び込みでアポを取ることがすべて。そのためには、モラルを捨て、なんでもやることが半ば強要されていた。しかし、いずみは不要なリフォームを進める気にはなれない。そのため、上司から怒鳴られ続ける毎日だ。こんな会社でも、彼女が辞めない理由は、どんな仕事でも仕事がない恐怖よりはマシだから・・・。

　それから3年、相変わらず限界スレスレの毎日を送るいずみに、新人の部下・俵 真之介がついた。新人がいるからといって当然、営業ノルマは変わらない。成績が悪ければ、彼女の給料が下がることになる。ところが、新人の俵はとんでもないマイペース男。向上心も欲もなく、歩合がつかなくても気にしない。食も服も気にせず、お酒も飲まない。使えない人間を辞めさせるための研修＝リンチも初日でケガをして脱落。ブラック企業に相容れない異分子が、予測不能の事態を巻き起こす⁉

『ちょんまげぷりん』『探検家の栄光』『オケ老人！』など映像化作品連発の著者だけあって、登場人物のキャラが立っていて、この役柄にはこの俳優と、自分なりのキャスティングが浮かんできます。現代社会の問題点を浮き彫りにしながらも、絶妙なコメディタッチで軽やかに読める、エンタメ色豊かな作品です。ラストは爽快！！

『大脱走』

著／荒木 源