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2017.8.28
晩年の芥川龍之介が抒情詩を捧げた相手は、14歳年上の上流夫人だった。『越し人 芥川龍之介最後の恋人』
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キーワード: 小説 芥川龍之介 片山廣子 犀星 堀辰雄 恋愛 文豪
芥川龍之介「最後の恋人」とひそかに語られる「文学夫人」の秘められた物語
芥川龍之介が「才知の上にも格闘できる女に遭遇した」(「或阿呆の一生」)と書き、
菊池寛が「最もすぐれた日本女性」とその才能を絶賛した片山廣子。
芥川龍之介が死去したのは昭和2年(1927年)7月24日から90年となるいま、芥川の「最後の恋人」とひそかに語られている歌人・片山廣子を主人公とした小説を、女性作家の視点で活写しました。
晩年の芥川が抒情詩を捧げた相手は、14歳年上の上流夫人で、アイルランド文学翻訳者としても名を知られていた歌人だった。
気品と情熱を胸に抱く貴婦人・廣子と芥川の軽井沢での出会い、そして情熱的な手紙のやりとり。
そして廣子のその後の人生を、廣子の娘と堀辰雄の成就しなかったロマンスをサイドストーリーにして描く、渾身の書き下ろし長編です。
‹‹「山梔子夫人の生身の声を聞いてみたい」
廣子が定宿にしている旅館の客室で、芥川がいった。
山梔子夫人というのはその花の匂いがする風情を漂わせ、且つ口数が少ないという理由もあるようで、廣子は笑うときも無声なのが特徴だった。
「生身の声って、どんな声ですの?」
「いかなる声でも」
「なんだか謎掛けですのね」
「いや、私は単純です」
珍しく彼は引かなかった。手を伸ばせば触れる距離だった。煙草の匂いと共に男の胸の鼓動が伝わってきた。
「あえて答えを出さない関係が、よろしいんじゃありませんの?」
廣子は逆に謎を掛けた。二人の間隔は縮まらないまま、互いの瞳だけは対峙していた。
「答えになるか、わからないですが」
伏せかけたまぶたを見開いて、芥川の眼差しが鋭く光った。廣子は息を呑んだ。ふいに男の唇が重なるような衝動を覚えた。››(第一章「死ぬことを恐ろしきやうに思ひはじめ一二歩われは詩に近づける」より)
廣子は芥川の死後、世間との関わりを絶ってひっそりと生きますが、最晩年にエッセイ集と歌集を刊行して高い評価を受け、79歳で逝去。
女性の見事な生き方のひとつの例として、片山廣子の人生は私たちにひと筋の光を当ててくれます。
「芥川に恋した十四歳年上の才女は、その身上と矜持と懊悩ゆえ、ここに文学史の一部となった。軽井沢で織りなされる犀星や堀辰雄との交友は、時代を語る貴重な記録としても興味深い」――高樹のぶ子氏(芥川賞選考委員)
著/谷口桂子
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