編集・出版社営業・書店員・翻訳者が[ロボット・イン・ザ・ガーデン]を語ってみた。
7/9
物語をいっそう面白くした翻訳ならではの妙味
あと、ロジャーの呼び方。ベンもタングも共に嫌いな人物な訳ですが、タングが彼の名前を口にする時は《 ロジ・ア゛ー 》ってめっちゃ嫌そう(笑)。
あれ、原文だとどうなってるんですか?
原文では「Roger」⇒「Roj-urgh」なのですが、「urgh」とは間投詞で、うんざりした時・とても不快な時に出す声なんですね。
「うぇ~」みたいな感じですかね。
なので、ここを原文で読むと、文字を見た瞬間に音のイメージがわき、ロジャーに対する何とも言えない不快感が視覚的にも伝わってきて、おかしいんです。
ほー、深いな!
しかも、普段ベンがそういう言い方をしているのをタングがしっかり聞いていて、気づいたらタングまで同じ言い方をするようになっていた場面なので、「気を抜くと大人の悪い癖が子どもにも移ってしまう」という子育てあるあるも垣間見ることができて、二重にじわじわくるんです(笑)。
ほー! 深い!!
と、一読者として読んでいるうちは楽しかったのですが、はて、これをどう日本語にしようかとなると難しくて。「ロジャー」という発音から離れるわけにはいかないですし、英語の「urgh」のように意味のある言葉を持ってくるのも難しい。うんざりため息をついている感じで「ロジ・アーア」にしようかと思ってみたり、でもそれだとやっぱりいまいちだなとまたボツにしたりで、なかなか決まりませんでした。
翻訳って、英語が解かるってだけで出来るわけじゃないんですねぇ。
最終的には意味を持たせることは諦めて、音そのものからうんざり感・不快感をイメージしてもらえることを祈りつつ、「ア」に濁点をつけたのでした。
「ロジ・アーア」よりも「ロジ・ア゛ー」の方が絶対にヨカッタと思う。素直に笑えたもん。
他に、「ここは苦労した」って部分はありますか?
カトウさんの名前が日本語で言うところの「茄子」だとはじめに読んだ時は、途方に暮れてしまいました(笑)。「なす」という名は、苗字ならあるでしょうが下の名前としては、少なくとも私自身は聞いたことがありません。
僕も無いです(笑)。
私の読み違いかと原文を何度も読み返して、「オーバジン」に茄子以外の意味がないか、持っている英英辞典も全て当たりましたが、やはり「茄子」しか出てきません。
そういう時に辞書引くんだ!?
しかも、そのままだとアメリカの人たちが正しく発音できないから、「茄子」に該当する英語を当て、カトウ・オーバジンと名乗るようになった、と書いてあります。でも、「なす」なら特に問題なく発音できてしまいそう……としばし首を傾げたところで、ようやく「あっ、そういえば『なすび』という名の芸人さんがいた!!」と思い出しました。
いましたね(笑)。
「なすび」なら、たしかにイントネーションがだいぶ変わって、おそらく「なすぅーびぃ」という感じになり、かなり間抜けです(笑)。「す」にアクセントが置かれ、音もそこが一番高くなるイメージです。あの実直なカトウさんが毎度毎度「なすぅーびぃ」と呼ばれたとしたら、「だったらオーバジンにしてくれ」と言いたくなるのも分かる気がします。そういうわけで、ここは「なす」ではなく「なすび」かなと判断したのでした。
字面だけじゃなくて、発音にも気を回さなきゃならんのか。くどいようだけど翻訳って深いな。
「なすび」でもだいぶ珍しいお名前ですが……デボラさん、どこかで芸人の「なすび」さんを見たことがあったのでしょうか(笑)。
そうやってケタケタ笑いながら読んでいると、不意に泣かせる事を言ったりするから油断できないんですよ、この本は。

SPECIAL

小学館公式サイトへ