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図鑑の世界にもっと飛び込んでもらうには?小学館がつくる2つの新しい体験

図鑑の世界にもっと飛び込んでもらうには?小学館がつくる2つの新しい体験
累計発行部数1200万部を超える、大人気シリーズ『小学館の図鑑NEO』。2021年、その図鑑NEOから「本」の形を超えて、図鑑の世界をリアルに体験できる2つの空間「ずかんミュージアム銀座」と「くらべて発見!みんなの図鑑大研Q」が登場した。それぞれの企画に深く関わった北川吉隆(写真左)と髙栁惠(写真右)が、子どもたちの好奇心を高めるために心がけたこととは。

好奇心に限界をつくらない。『小学館の図鑑NEO』から生まれた2つの体験型展示

本を飛び越えて図鑑の世界を楽しめると大きな話題となった2つの体験型展示。出版社で本を作る仕事をしている2人が、本を超えたリアルな体験空間の実現にどのように携わったのか?
北川
「ずかんミュージアム銀座」は、7社におよぶそうそうたる企業の皆さまとの協業で実現した事業です。コロナ禍の中、さまざまな苦労がありましたが、小学館100周年記念のタイミングでオープンできたことをうれしく思います。小学館でも多くの社員がさまざまな立場でこの事業に携わりましたが、私は主に図鑑の編集者として、デジタルで再現された動物たちの姿や動きなどを監修させていただきました。
髙栁
私は「くらべて発見!みんなの図鑑大研Q」の方を、企画立案からPRまで担当していました。これは、当時革命的だとテレビでも話題になった『小学館の図鑑NEO+ぷらす くらべる図鑑』を、さらに身体性をともなう形で体験できるようにしたというイベントです。「ずかんミュージアム銀座」が、デジタル表現を中心とした常設展であるのに対して、「くらべて発見!みんなの図鑑大研Q」は、春・夏休みに限定で開催されるアナログ表現を中心した特別展という違いがあります。

テクノロジーの力で、子どもたちの好奇心をもっと引き出したい

「ずかんミュージアム銀座」は、登場する生き物たちを「記録の石」で記録しながら、学び、楽しみ、夢中になれるアカデミック・エンターテインメント。知の集積である「図鑑」から広がる世界を届けるに至った裏側は?
北川
企画を温めていた企業から「動物をデジタルで再現する展示をつくりたいので、図鑑づくりを得意とする小学館に監修してほしい」というお話をいただいたのがプロジェクトのきっかけです。その時は、「本当にできるのかな?」と懐疑的でした(笑)。ただ、話を聞いていくと、その根底には「図鑑に載っている生き物たちを、最新のデジタル技術で忠実に再現して子どもたちに触れ合ってもらいたい」という、時代の一歩先をいく考え方があって。ゼロからのスタートだったので不安もありましたが、今まで私たちが制作してきた紙の図鑑や付属のDVDとは異なる表現方法に魅力を感じて、監修を引き受けました。
39種類の生き物に出会える「ずかんミュージアム銀座」は、5つのゾーンを探検しながら、「記録の石」と呼ばれるデバイスに生き物を集めていく体験型ミュージアム。約1時間かけて、さまざまな生き物にたっぷり触れることができる。
39種類の生き物に出会える「ずかんミュージアム銀座」は、5つのゾーンを探検しながら、「記録の石」と呼ばれるデバイスに生き物を集めていく体験型ミュージアム。約1時間かけて、さまざまな生き物にたっぷり触れることができる。
北川
監修作業は、専門家の先生の助けを借りながら行われました。「アレクサンドラトリバネアゲハのはねの模様が実際と少しちがうのではないか?」「ヘラジカの鳴き声はこんなに長くないよね」などと、生き物の色や形、動き、鳴き声などについて、さらには生息する環境に至るまで一つ一つチェックしていく必要があり、すごく大変でしたね。その作業は、普段の図鑑づくりに通じるものがありました。
「今後はもっと動物の種類を増やして、より探検色の強い展示になっていったら面白いですよね。恐竜や深海生物など、また違ったジャンルの展示にも挑戦してみたいです」(北川)
「今後はもっと動物の種類を増やして、より探検色の強い展示になっていったら面白いですよね。恐竜や深海生物など、また違ったジャンルの展示にも挑戦してみたいです」(北川)
北川
ミュージアムがオープンしてからは、子どもたちの反応をダイレクトに見ることができるようになって、本当にうれしかったですね。親御さんを置いてきぼりにするほど夢中になって、好奇心の赴くままに記録しているんですよ。彼らの目の輝きは、僕らが子どもの時に昆虫採集をして、カブトムシを見つけた時と何も変わらなかった。テクノロジーによって体験の方法が変わったとしても、子どもたちは自分で探して発見することが大好きなんだと実感することができましたし、その体験の尊さに改めて気づきました。こうした展示の体験を通して、なかなか自然に触れることのできない今の時代の子どもたちの好奇心に火がつき、もっと知りたい!と自ら図鑑で調べ始め、その結果、深い知識を身につけることにつながっている。そんな新しい好奇心の引き出し方ができたことにも手応えを感じました。この体験をきっかけに、さらに実際の生き物や自然に興味をもってくれれば、もう言うことなしですね。

全身を使ってくらべるから、発見できることがある

動物、世界の文化、宇宙という3つのテーマについて、実寸大でさまざまな比較できる特別展「くらべて発見!みんなの図鑑大研Q」。時節柄、いろんなものを手で触れることができないことを逆手に取り、新たな体験方法を模索していきました。
髙栁
この企画は、地方創生のイベントに小学館が出展した際に出会った、大手施工会社さんとのやりとりから始まりました。以前から『小学館の図鑑NEO+ぷらす くらべる図鑑』で比べられていることが、等身大サイズで再現できたら面白いんじゃないか?という話がもちあがっていて。私自身「本を作る」で終わらない、新しい挑戦ができることにワクワクしていました。

プロジェクトの初期から、『くらべる図鑑』の担当編集者にも本当に精力的に関わってもらえたことで、ほぼほぼ実現の見通しもついていたのですが、企画の途中で急速に新型コロナウイルス感染症が拡大。内容を根本から見直さなければならなくなりました。感染症対策のため、手でモノに触れない展示にしなければいけないけれど、子どもたちにはちゃんとくらべて実感してもらいたい。そんな大きな課題を乗り越え、子どもたちが満足できる展示内容を千葉市科学館と連携しながら考えていきました。
第1回は千葉市科学館で開催。2022年以降は春に栃木、夏に仙台の科学館で順次開催、その後も全国各地で展開される予定。
第1回は千葉市科学館で開催。2022年以降は春に栃木、夏に仙台の科学館で順次開催、その後も全国各地で展開される予定。
髙栁
最終的に「足で踏む」「音をきく」という、手で触れる以外のアクションを増やすことに。特に、10秒間で何歩踏めるかを測り、他の動物と走る速さの比較ができるコーナーは、連日整理券を配るほどの大盛況でした。ほとんどの子どもは、豚より少し速いくらいの結果になるのですが、「あ〜あ、豚レベルか…」と残念がりつつも、他の動物たちがどれだけ速く走れるのかを実感する姿がほほえましかったです。

また、展示で気になった動物を対象に、自分でサイズや重さを比べてみようという、1人で完結できるワークショップの開催や、親御さんと手や足の大きさをくらべるといった内容を組み込んだことで、本だけでは得られない体験も提供することができました。『小学館の図鑑NEO+ぷらす くらべる図鑑』がより新しく、立体的な形になったと感じました。
「おかげさまで大反響をいただき、全国の科学館でシリーズ化できる流れになって良かったと思います。今後は全47都道府県で、各地の特徴に合わせて新しいコンテンツを追加しながら拡張していきたいです」(髙栁)
「おかげさまで大反響をいただき、全国の科学館でシリーズ化できる流れになって良かったと思います。今後は全47都道府県で、各地の特徴に合わせて新しいコンテンツを追加しながら拡張していきたいです」(髙栁)

これからの100年に向けて

1956年から学習図鑑を作り続けている小学館。60年以上をかけて充実させたコンテンツと、長年培われてきた編集技術は、今後どのように活かされていくのでしょうか。
北川
僕はもともと、図鑑を作りたくて小学館に入社して、9年目となる2000年に図鑑編集部に加わることになりました。ちょうど『小学館の図鑑NEO』シリーズを新しく作ろうというタイミングで、創刊から携わることができました。図鑑の編集は本当に地道な作業の積み重ねで、1冊作るのに数年かかります。私も20年間で手がけた図鑑は10冊以上。1冊ごとに大変な労力がかかりますが、後世に残していける紙の図鑑をしっかりとつくることで、映像やデジタルなど、新しいテクノロジーと掛け合わせた企画が生まれていくと思っていますから、これからも土台づくりを大切にしていきたいですね。
「しっかりした土台を作った上で、デジタルをはじめとした他ジャンルへの展開も、模索し続けていきたいと思っています」(北川)
「しっかりした土台を作った上で、デジタルをはじめとした他ジャンルへの展開も、模索し続けていきたいと思っています」(北川)
髙栁
小学館は「総合出版社」です。これまでの「総合」は、全世代に向けた雑誌や書籍があるという意味だったかもしれませんが、これからの小学館はそこから飛び出して、「なんでもできる“総合力”の出版社」になっていくと思っています。私自身、もっといろいろな部署を横断しながら、できることを広げていきたいです。
「小学館の図鑑という歴史あるコンテンツを使って、立体的な体験型の展示にすることは、子どもたちにも、科学館にも喜ばれることだとわかりました。社会に価値を提供し、ポジティブな循環を生み出していける。そんな新たな可能性をこれからも見いだしていきたいです」(髙栁)
「小学館の図鑑という歴史あるコンテンツを使って、立体的な体験型の展示にすることは、子どもたちにも、科学館にも喜ばれることだとわかりました。社会に価値を提供し、ポジティブな循環を生み出していける。そんな新たな可能性をこれからも見いだしていきたいです」(髙栁)
北川 吉隆
第三児童学習局 図鑑
髙栁 惠
広告局 第二企画営業室