07 「本のつくり方」
を0から考えよう。
「本のつくり方」を0から考えよう。

本づくりも、サステナブルに。続けていくことと、0から考えること

本づくりも、サステナブルに。続けていくことと、0から考えること
SDGsという言葉が生まれる以前から、古紙利用や植林事業、産業の基盤づくりなど、未来を見据えた出版活動を行ってきた小学館。現在、社会の変化がますます激しくなるこれからの時代に向けて、「出版の持続可能性」も模索している。その実情について、本づくりに材料から携わる河合隆史に話を聞いた。

本をつくるための資源から、責任を持つ。小学館の本づくりのコアにあること

週刊少年サンデーに代表される漫画雑誌を中心に、60年以上続けている「古紙の活用」や、紙の原料である木の再生のために、20年以上前から継続している植林事業。「マテリアルリサイクル」や「カーボンニュートラル」という言葉が広がる前から、小学館が続けてきたこととは。
河合
そもそも「古紙」とは、集めた紙を細かく切り、脱墨(だつぼく)といってインクを洗い流すことで再生された紙のことです。日本ではトイレットペーパーや段ボールなどにも昔から古紙が使われてきましたが、1959年「週刊少年サンデー」や「週刊少年マガジン」が創刊されたことで、雑誌への古紙利用も飛躍的に伸びていきました。
「色ザラ紙と呼ばれる、色付きの古紙が使われるようになったのもこの頃から。100%の古紙はどうしてもグレーがかった色になるのですが、子どもが読むものだから色がついていたほうがいいだろうということで着色が始まったそうです」(河合)
「色ザラ紙と呼ばれる、色付きの古紙が使われるようになったのもこの頃から。100%の古紙はどうしてもグレーがかった色になるのですが、子どもが読むものだから色がついていたほうがいいだろうということで着色が始まったそうです」(河合)
河合
日本は紙の分別・回収システムが非常にうまく機能しているため、日本の古紙利用率は67.2%*、古紙回収率も84.9%*と、世界的に見ても高い水準で行われています。このようなマテリアルリサイクルがうまく循環することによって、本に欠かせない「紙」が持続可能な資源として利用できるようになっています。
*「数字で見る古紙再生」より
「2000年代以降は紙の漫画雑誌全体の発行部数が減り、原材料費も上昇。さらにリーマンショックの打撃もあり、2008年に生産体制が見直され、それまで何色もあった色ザラ紙の色数は、樺色(オレンジ)、日和色(緑)、クリーム色の3色まで減りました。」(河合)
「2000年代以降は紙の漫画雑誌全体の発行部数が減り、原材料費も上昇。さらにリーマンショックの打撃もあり、2008年に生産体制が見直され、それまで何色もあった色ザラ紙の色数は、樺色(オレンジ)、日和色(緑)、クリーム色の3色まで減りました。」(河合)
河合
小学館では、製紙メーカーのご協力もあり、紙の資源そのものを育て増やすことを目的に、2000年からオーストラリアでユーカリ植林事業も行っています。ただ、近年では気候変動によりその植林事業の環境が厳しくなりつつあることも事実です。雨が降らないので木が育ちにくくなっている上に、森林火災の発生も増えています。以前は570ヘクタールの植林地を持っていましたが、今では80ヘクタールにまで減らして運営している厳しい状況です。自然相手だからこそ仕方がない部分もありますが、このような状況でも、植林事業の継続は検討する必要があります。

読者の皆さまの手に届くものは、すべて安心・安全なものにする

時代は変わり、子ども向け雑誌では、組み立て不要の付録に人気が集まっています。素材が紙以外に変わったとしても、「ちゃんとしたものを届けたい」という思いは変わりません。
河合
今は子ども向け雑誌に組み立て不要の付録がつくようになっています。 紙の付録と違い、手間がかからず遊びやすいので人気なのです。これを私たちは「完成品付録」と呼んでいます。

雑誌の付録なのでローコストで仕上げる必要がある一方、子どもが遊ぶものなので、安全性も非常に重視しています。小学館では、ST基準という日本玩具協会が定める玩具の安全基準にならい、製造会社に守ってもらうように働きかけつつ、自社でも成分分析を行い、その安全性が保証された完成品付録だけを世に出すようにしています。
「これまでは印刷会社などの取引先もほとんど首都圏にありましたから、何かあれば現地へ行って解決できたんです。しかし、完成品付録で、海外(主に中国)の会社に製造委託する場合にどのように生産管理すべきか、はじめは試行錯誤の日々でした」(河合)
「これまでは印刷会社などの取引先もほとんど首都圏にありましたから、何かあれば現地へ行って解決できたんです。しかし、完成品付録で、海外(主に中国)の会社に製造委託する場合にどのように生産管理すべきか、はじめは試行錯誤の日々でした」(河合)
河合
また、「完成品付録」も、紙の本であっても変わらないこととして、素材の質感も非常に重要です。本の表紙と本文の紙には、やはり適材適所の紙の厚さや印刷がある。私たち制作局は、読者の皆さまが違和感を感じない素材が使われているかチェックするというのも大事な仕事です。「適正なものづくりをしていれば、しっくりくるものになる」と考えて取り組んでいることで、本も付録も安心できるものに仕上げられていると思います。

本づくりの適正なバランスとは。過渡期だからこそ考えるべきこと

小学館の本業である出版事業。電子化の流れが加速している今、紙の本づくりに携わる企業が苦境に立たされています。
河合
出版社は生産設備を持っていないため、私たちが本を作るときは製紙、印刷、製本など、外部のさまざまな企業の力が必要不可欠です。しかし今は、さまざまな時代の変化の影響によって、彼らに負担がかかりすぎている状態です。出版社はそういった企業に対して、新たなビジネスの可能性を模索し、提示していきたいと思っています。

例えば製紙会社は、これまで出版物を作るために数多くの種類の紙を用意してくれていました。しかしたくさんの種類の紙を作るということは、そのぶん負担も大きいということ。出版社としてもその点を考慮し、改めて需要と供給のバランスを見直して、使用する紙の種類を絞りつつ、買い方、使い方をどのように変えていけばいいか、道筋を一緒に考えていく必要があると思います。
「私たちの本づくりのこだわりと、関係する会社の皆さんの負担のバランスを0から考える。それも、サステナブルな本づくりを実現するための、出版社の大事な責任だと考えています」(河合)
「私たちの本づくりのこだわりと、関係する会社の皆さんの負担のバランスを0から考える。それも、サステナブルな本づくりを実現するための、出版社の大事な責任だと考えています」(河合)

これからの100年に向けて

小学館として、個人として、これからの100年に向けて大切にしていきたい姿勢とは
河合
出版社としては、これからの本づくりにどのような責任を持つべきか、何が本当に大事なことなのか、最適解を常に模索していかなければならないと思います。価値観がどんどん変わっていく時代だからこそ、柔軟な姿勢を持ち、業界全体で知恵を出し、話し合っていけたらいいですね。

これから100年、本づくりにおいては完全な0からのスタートとはいきませんが、私自身、本づくりの周辺を取りまとめる部署にいるからこそ、新しいシステムを0から生み出せる可能性はあるはずです。未来を生きる人たちのために、社会人としての責任感を胸にこれからも取り組み続けていきたいと思います。
河合 隆史
制作局